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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)10748号 判決

一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二(一) 成立に争いのない甲第一号証及び乙第一号証によれば、本件登録意匠の構成は次のとおりであると認められる。

(1)(イ) 左右各側面においては、上部は中央よりかなり背面寄りのところを頂点としてゆるやかな弧状をなし(但し、厳密には平面に存する後記(2)の網目模様のため凹凸を含む弧状の曲線をなしている。)、その両側部は一方(背面側)が丸く膨らんだ弧状をなし他方(正面側)が斜め下方向に向かつて細くややとがつた形の弧状をなして共に底部に連なり、その底部は中央において上部に比しより急な弧状の湾曲をなして(但し、底部においても底面に存する後記(2)の網目模様のため凹凸を含む弧状の曲線をなしている。)くぼんでいる、いわゆる勾玉形に類似の形状をしており、

(ロ) 平面において縦の長さ一に対し横の長さほぼ三・四の割合で横に長い方形状をなしている、

(ハ) いわゆる勾玉形に類似の形状をその基底形状とする柱体であること。

(2) 左右各側面を除く、平面、底面、正面及び背面の各表面において、本体より僅かに扁平状に突出した各個がほぼ正方形の多数の突部が印され、いわゆる網目模様が形成されていること。

(3) 左右各側面のほぼ中央に小さな凹状箇所とその凹状箇所を中心とする放射線状の模様が形成されていること。

(二)(1) 本件登録意匠の構成は、前記(一)認定のとおりであるところ、前顕甲第一号証、乙第一号証及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠の要部は、前記(一)の(1)(イ)、同(2)及び同(3)に認定した左右各側面の形状、左右各側面を除く平面、底面、正面及び背面の各表面の網目模様並びに左右各側面の放射線状の模様にあると解するのが相当である。

(2) 原告は、本件登録意匠の全体に縦長の形状も本件登録意匠の要部の一部である旨主張するが、右の点を認めるに足る証拠はなく、却つて成立に争いのない乙第四、第五号証及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、全体に縦長の形状は、ハム製品を対象とする意匠の分野においてありふれた形状であることが認められるから、右主張は到底採用の限りでない。

(3) 原告はまた、前記(一)(2)の網目模様につき、(イ)ハム製品は多重包装されて販売されるため、消費者は表面の網目状の凹凸の有無を識別しえない、(ロ)右網目状の凹凸は突部が本体より僅かに突出しているだけのものであり、本件登録意匠の要部である勾玉形柱体の形状自体を変形させる程の影響を与えるものではないとして右網目模様は本件登録意匠の要部ではない旨主張する。しかし、登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真等により現わされた意匠に基づいて定められるものであり(意匠法第二四条参照)、したがつて本件登録意匠の範囲を定めるに当たつて、意匠に係る物品たるハムが実際に販売される際に多重包装されるとの点は、考慮すべきことではないから、右(イ)の主張は理由がなく、また、網目状の凹凸は、原告主張のように、突部が本体より僅かに突出しているだけのもので、勾玉形柱体の形状自体を変形させる程の影響を与えるものではないとしても、そのことは、網目状の凹凸が存在し、これが本件登録意匠における意匠の要部であると認めうることとは別の問題であるから、右(ロ)の主張もまた採りえない。

三(一) 被告がイ号物品を製造、販売したことは、その販売期間の点を除き当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第三号証の一、乙第三号証、本件口頭弁論の全趣旨によりイ号物品の写真であると認められる甲第三号証の三の一ないし六を総合すれば、イ号意匠は別紙図面(〔編註〕省略)(三)のとおりであると認めるのが相当であり、右認定を覆すに足る証拠はない。

(二) イ号意匠であること前認定のとおりである別紙図面(三)及び前顕甲第三号証の一、同号証の三の一ないし六、乙第三号証並びに本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、イ号意匠の構成は次のとおりであると認められる。

(1)(イ) 左右各側面においては、上部は中央よりやや背面寄りのところを頂点としてゆるやかな弧状をなし、その両側部は一方(背面側)が丸く膨らんだ弧状をなし、他方(正面側)が斜め下方向に向かつて細く膨らんだ弧状をなして共に底部に連なり、その底部は中央において上部とほぼ同じゆるやかな弧状の湾曲をなしてくぼんでおり、

(ロ) 平面において縦の長さ一に対し、横の長さほぼ二・八の割合で横に長い方形状をしている、

(ハ) 前記(イ)の側面の形状をその基底形状とする柱体であること。

(2) その全表面においてほぼ平滑な表面を呈しており、特段の模様を有しないこと。

四 以上の認定事実に基づきイ号意匠と本件登録意匠の類否につき判断する。

(一) まず、左右各側面の形状につき本件登録意匠とイ号意匠とを対比するに、前記二(一)(1)(イ)、三(二)(1)(イ)から明らかなように、各側面の上部がゆるやかな弧状をなしている点、両側部の一方(背面側)が丸く膨らんだ弧状をなし、他方(正面側)が斜め下方向に向かつて弧状をなして共に底部に連なつている点、底部が中央において弧状の湾曲をなしてくぼんでいる点において共通するが、斜め下方向に向かつて弧状をなしている両側部の一方(正面側)が本件登録意匠では細くややとがつた形の弧状をなしているのに対し、イ号意匠では細く膨らんだ弧状をなしている点、その底部における弧状の湾曲の程度が本件登録意匠では上部の弧に比しより急であるのに対し、イ号意匠では上部の弧とほぼ同じである点、そのゆるやかな弧状をなしている上部がイ号意匠では本件登録意匠に比しより中央寄りのところを頂点として弧を形成している点及び上部、底部の弧は本件登録意匠においては平面、底面(及び正面、背面)に存する各個がほぼ正方形の多数の突部による網目模様のため、かなりの凹凸を示しているのに対し、イ号意匠では滑らかな曲線をなしている点において相違し、特に左右各側面における両側部の一方と他方の弧の大きさ及び形状の差異が本件登録意匠ではイ号意匠よりも顕著である点において両意匠の相違が顕著である。

(二) 次に、前記二(一)(2)、三(二)(2)認定のとおり、本件登録意匠はその左右各側面を除くその余の表面において、各個がほぼ正方形の多数の突部による網目模様を有するのに対し、イ号意匠はその全表面がほぼ平滑で右のような網目模様を欠く点において相違し、この差異は顕著である。

(三) 更に、前記二(一)(3)、三(二)(2)認定のとおり、左右各側面の表面において、本件登録意匠はそのほぼ中央に小さな凹状箇所とその凹状箇所を中心とする放射線状の模様を有するのに対し、イ号意匠はこのような模様を欠くものであり、本件登録意匠とイ号意匠とは左右各側面の形状だけでなくその表面の模様においても相違する。

(四) 以上によれば、イ号意匠は、前記二(二)(1)認定の本件登録意匠の要部において本件登録意匠と相違するものであり、全体として、本件登録意匠とは美感を異にし類似しないものといわざるをえない。

なお、原告は、円柱体、方形柱体以外の形状から成るハムの意匠としては本件登録意匠が初めてのものであるからとして、別紙図面(二)の意匠も全体的にみて本件登録意匠の勾玉形柱体が有する斬新的な審美性と軌を一にする旨主張するが、イ号意匠は別紙図面(二)のとおりではなく、前記のように別紙図面(三)のとおりであると認めるのが相当であるばかりでなく、円柱体、方形柱体以外の形状から成るハムの意匠としては本件登録意匠が初めてのものであるとの事実を認めるに足る証拠はなく、却つて、前顕乙第四、第五号証によれば、円柱体、方形柱体以外のハムの意匠が本件意匠登録出願前の出願による登録意匠に係る意匠公報に示されている事実が認められるから、原告の右主張は到底採用の限りでなく、イ号意匠が本件登録意匠と美感を異にすること前段のとおりである。

五 してみれば、イ号意匠が本件登録意匠に類似することを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとする。

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